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益榎前提榎益。
性的描写注意

※18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください※


嗚呼、しまったな。
爪が伸びている。

布を握りしめた時、指先に力がこもってはじめてそれに気づいた。
独身の男というものはどうもいけない。このような細々としたところでどうしても不精になってしまう。
探偵助手として多少なりと身形に気を配っているつもりの自分でも、髭や服の皺までは気をつけられてもこういった部分は見落としてしまう。
鍵盤に親しんでいた頃にはその指先は身嗜みの最たる項目だったが、ピアノから離れて久しい今ではその重要度も著しく低かった。

「…お前はピアノに興奮するのか」
「へ?…あ、すみません」

勝手に連想していた映像を視たのだろう榎木津さんがぽつりと呟いて、乾いた掌が頬をすりすりと撫でていく。
猫や犬に触れる時のような、邪気も含みもない柔らかな接触に図らずも顔が赤くなってしまいながら、自ら抱きつくようにしがみついていた男を見上げると、頭頂骨の辺りを彷徨わせていた大きな鳶色の瞳が僕の視線と重ねられる。

「……あ、の。先に風呂、入りませんか。僕汗かいちゃって、シャツが張り付いて気持ち悪いんですよねェ」
「汗なんてかいてないじゃないか。たった今、雨のせいで肌寒いと自分から抱きついてきたくせに」

 うう、と唸って困ったように顔を下げると、麗人は軽く首を傾げてまた頭の上に視線を彷徨わせた。

「指がどうし……おい。何考えてるんだお前」

抱き合っていたはずの体がグイと押し返され、盛大に眉をしかめた美丈夫が顔を赤くして睨みつけてくる。
おそらくは、爪切りのシーンと、その指を使い彼の体を解している、あの卑猥な瞬間のイメージでも見られてしまったのだろう、そんなもの今すぐ忘れろ!と喚きながら額に掌が押し付けられて頭を揺さぶられる。

「わ、あわわ…違うんですよゥ、いえ、厳密には違わないんですが、そのですね…」
「何だ、はっきり言え!」

すっかり距離の空いた互いの間に、手のひらを下にして両手を差し出す。
訝しげに眉を寄せながら榎木津さんがそれを見下ろす。下からすくうように片手を取られる。

「手がどうした」
「あ…と。爪がですね、すっかり伸びちゃってまして。…………これじゃあ貴方の肌を、その…傷つけちゃうなあ、と」

恐る恐ると目を上げれば、きょとんとした表情に出迎えられる。しかし数秒後に再び僕の記憶を視て顔を赤くしながら頭をはたかれる。

「痛ッ!酷いですよ、叩くこたァないじゃないですか」
「五月蠅いっ!馬鹿なものばかりお前が覚えているからだ!!」

強く肩を押されて後ろによろけた僕は、そのまま寝台の角に足をひっかけて仰向けに倒れこんでしまった。
うひゃあ、とか何とか裏返った悲鳴を上げて柔らかな蒲団に体を受け止めてもらうと、その上から覆いかぶさるようにして無遠慮な麗人が寝台に乗り上げてきた。

「あの、え、榎木津…さん?」

再び室内に流れ始めた妖しげな空気に、僕は戸惑いながら絶世の美男子を見上げる。肩から首にかけて手を伸ばし、熱く乾いている肌を撫でる。
左手を僕の頭の横について、右手で着衣が乱されていくと漸く戸惑った声を上げて僕は抵抗らしい抵抗を始めた。

「榎木津さん、あの、ですから…爪が伸びてて。少し待っててもらえたら直ぐ切ってきますから」
「いいよ、そのままで」
「それじゃあアンタに傷がついちゃうでしょう」

神の体に傷をつけるなんて、と僕が眉を寄せると、それはもう美しく妖艶に榎木津さんは笑った。

「だから、今日は僕が上だ」







「え、榎木津、さァん…勘弁して下さいよ……」

ゆるく開かれたままの口から随分と甘ったるい声が漏れた。
衣服をすべて剥ぎ取られ、少し冷えていた体は榎木津さんの手管によって沸騰してしまいそうな程に熱い。
彼の宣言はどこまでも本気で、彼の唇も指もその眼差しでさえ僕自身を煽っていった。
胸元で舌が滑っていく。薄い筋肉の流れを沿うように粘膜が撫でて行ったあと、はしたなくもツンと尖る乳首を捉えては咥内に含まれる。
反対側も放っておかれることはなく、親指でくりくりと押しつぶすように円を描く。
その度に僕はむず痒い刺激と疼く腰にシーツを握りこんでしまう。もう自身なんて先ほどから完全に勃ち上がり先端からだらだらと先走りを滲ませていた。

「いつもお前が僕にしていることだろう」
「だってそれは、奉仕だからいいんですよゥ……ンン、あ…くすぐったい」

実際、僕に対して彼に何かの動きを求めたことはない。
それはやはり神に対する僕の心情が崇拝に近いもので、その御手を煩わせることへの罪悪感と奉仕願望から自然と形成されてきた夜伽の形といえる。
誰がどう考えても、貧相な男の体に麗人が奉仕する図なんて相応しくないと、関係を持った初めの頃にそれはもう頑なに説いた僕の言に神は相当呆れ、また同時に面倒になったらしく、好きにしろ、と一言返して後は僕の望みどおり鮪となってくれていた。
なのに、今は完全に逆だ。

「いつもより余裕がなさそうだぞ」
「ッは、…!」

指先が竿を下から上へ向かって撫でてゆくと顎が上がり喉がそらされる。額に浮かぶ汗がつ、と流れた。
そこは自覚していた以上に先走りに濡れていたらしく、ゆっくりとした手つきで握りこまれたにもかかわらずぬるぬると滑って目の前が眩む程の快感に息をのんだ。

「あ、やです…榎木津さん…ッ」

熱がさらに上がった気がして、涙腺が緩み始める。
脚がシーツを蹴って逃げ出そうともがいても、腰を抱くようにしてずるりと元の位置まで引き戻されてしまう。
榎木津さんは興奮からか目尻を赤く染めて愉しそうに目を細めている。

「ふふ、いい様だ」

囁くように甘い声が紡がれ、その声が思った以上に下から聞こえてきたことに気づいて慌てて顔を上げる。
丁度僕自身に顔を近づけた彼と目があって、今度こそ本当に涙が滲んできてしまう。

「もっと啼くといい」
「い、いけません榎木津さ、――っひ!」

一気に咥内へと全てを納められ、初めての刺激に目を見開いて裏返った悲鳴を上げる。
秘所へ押し込んだときとは違う、遥かに熱く蠢く粘膜に腰から下が痺れていく。
幹へ沿う舌が雁首をなぞる様につつき、僕はもう何もかもぐちゃぐちゃになってただ涙と嬌声を上げることしかできない。

「ぅあ、―ッン……厭、えの、…さ」

先端を吸われるたびに体がびくびくと跳ね、思考が溶けて満足に抵抗も出来なくなってきた頃、其処に違和感を感じた。

「は……ァ、や、そこ、そこはッ……」
「大丈夫だ、息を吐いて力を抜け」

垂れた先走りか唾液か、何にせよ其処は不自然に濡れていて指先が思ったよりあっさり侵入してくる。
それでも圧迫感と違和感は到底すんなりと受け入れられるものではなく、体が勝手に異物を締め付ける。
ただ、その間も陰茎には舌がからみついていたし、指も強引に突っ込まれることはなく、第一関節まで辺りをゆるゆると往復させるばかりで、意志に反して入口が段々と緩んでいくのが解った。
と、僕の反応にイケると踏んだのか、指が深くまでもぐりこんでくる。そしてその刺激に僕は肩を揺らして驚愕に近い悲鳴を上げた。

「あ、あ、ッ!?え、えのきづさ。そこ、や、ッ、…!」
「ふうん、ここだな」

断続的な強すぎる快感に呼吸が乱れ、スタッカートが入ったように声が跳ねる。
そう云えば確かに、いつもは今僕の脚の間で好き放題振る舞う麗人の其処を探り、同じように刺激していたと思い出したが。
まさかこれほどにきつい甘美なものとは知らず、いつも無遠慮に触れて悪いことをしたなあ、なんて霞がかった頭で逃避に走る。
快感と羞恥から逃げたくて頭を左右に振れば長い前髪が額に張り付いて気持ちが悪い。それでも視界を少しでも邪魔する存在に少し安堵して、それは秘所にも連動して彼の指を受け入れやすく解けていく。

「お前はこんな所ばかり賢いね、もう順応してるぞ」
「ん、ァア…!ッは……駄目、ですって…、…え、ッあ、嘘…」

金属音が耳に届き、驚きに上半身を軽く起こそうとする。尻で手を蠢かしたまま、もう片方の手で自らのベルトを外し前を寛げている榎木津の姿を認めて、今更にこの行為がそのための事だったと思いだす。
そもそも僕自身よりご立派かつ美しい――こんな場所まで綺麗だと本当に神族のように見えてくる――陰茎が、下着の中で既に育ちきっているのを見て、今までの行為に彼が興奮していたという事実を突き付けられた気がして顔に熱が集まる。

「お前の痴態は予想以上に好い。そろそろ限界だ」

ぬるり、と指が引き抜かれ、内壁を滑って行く感覚にぶるりと肩が震えた。その隙間に喪失感を覚えるより先に指以上に熱い塊が当たる。
僅かに腰をゆすられて入口と先端が擦り合う小さな水音が響いて、麻薬のように頭が融かされてしまう。
生まれて初めてそこで感じる愛しい人の熱は、火傷してしまうと錯覚するほどに熱く、それを胎内へ捩じ込んでほしいという欲が灯るのを確かに感じた。

「物欲しそうな顔をしている。云ってご覧、何が欲しいのか」
「ッ……えの、きづさん……んぅ、…くだ、さい……貴方に、あなたの…これが、ほしい」

シーツを握りしめていた手を解いて恐る恐ると互いの接触部分へ伸ばす。
彼の情欲はきっと今まで触れた中で一番大きく熱く、僕の侵入を望む孔も卑猥に伸縮していた。
僕の要求に榎木津さんはいっそ場違いな程優しく微笑んで、ゆっくりと、しかし確実に僕の内部へと腰を進め始めた。

「ひあ、アァ……あ、くぅ…」

流石に圧迫感は指の比ではなく、その内臓を潰されそうな質量に悲鳴にすらならない呻き声が漏れる。
それでも、少し引いては侵入を深め、また少し引いて…と徐々に潜り込んでくる杭の動きはあくまでも優しく、同時に絶え間なく口付けを落とされて、強張った体が段々と解けてくるのが分かる。

「お前があんまり煩いから好きにさせていたがね、僕は初めからこうしたかったんだ」

長い時間をかけてようやく全てを納めた頃、額に汗を浮かべて息を荒くした榎木津さんが耳元で囁いた。
僕の方はと言えば、その言葉に驚いて下から彼の人を見上げた瞬間に深くまで埋め尽くされたまま腰を回されて、その動きで先ほどの敏感な部位が再び刺激されて驚きに開いた口からは嬌声が漏れた。
あとはもう、引いて押し込んで、揺さぶられて突き立てられて、中を撫でて擦って押し上げるその動きにいちいち翻弄されて身も世もなく泣き、終わりが見えてきた頃には何も分からなくなってただ榎木津さんにしがみついてその名前を助けを求めるようにただ只管に呼び続けていた。

「えの、きッさ、ッ榎木津さァん! いやだ、イイ、や…ッ駄目、駄目です…!!」
「ッいいぞ、イケ」
「…ッあ、―――アァァ………!!」
「ン、ッ………!」

痛いほどにギチギチに張りつめていた陰茎が強く脈打って、自分の腹や胸に白濁を吐き散らす。
痙攣するような筋肉の収縮は内部に埋め込まれていた榎木津さん自身にもダイレクトに伝わったらしく、最後に強く深くに突き立てられて中で何度もその精液を出されている感覚を感じて僕はその甘美な終末に意識をゆだねた。






「ふふふ、やあっと僕の望みどおりになった」

意識がはっきりした時にはもう情事の後片付けは済まされていて――中に何か残っている気配もしないのは、恥ずかしさに死ねそうなのであえて深く考えないようにして――素っ裸のまま榎木津さんの腕を枕にする様に寝かされ抱きしめられていた。

「望みどおり、って」
「言っただろう、僕は初めからこっちの方が良かったんだ。お前が下らないことであまりに煩いから、この際どっちでもいいかなと思っていたけど」

腕が僕の体をさらに引き寄せる。胸の中素肌が触れ合う心地よさと気恥ずかしさに僕は身じろぐことしかできない。

「やっぱりこっちの方がいい」
「…………分かりましたよ。今度からは榎木津さんの好きにしてくださいよ、もう」

そもそも頑なだったのは彼に触れられて自分を見失う事が怖くて、ただそれだけの理由だった。一度抱かれてしまったなら、もう同じだ。
鎖骨に鼻先を埋めてくぐもった声で拗ねたように呟けば、触れ合った肌を直に通して低く甘い笑い声が響いた。

「お前だって、そっちの方が好きだろう」
「そりゃアンタが相手だからですよ」




そのまま心地よい体温に包まれたまま微睡みの世界に身を委ね。
翌朝、日の光に照らされた榎木津さんの背中に幾本かのひっかき傷をこさえてしまっていた事に気づいた僕は、これから爪は絶対に切り忘れないようにしよう、と顔を赤くしながら心に誓った。





 


努力したほどエロくならなかった榎益でした。
天然で言葉攻めとかテクニシャンなエロ木津さんにしたかったのに、それも夢半ばです…
ちなみに、タイトルの本職って言うのはピアニスト的な……今回の話は十年近く昔、年上の友人に彼女を傷つけないように最低でも右手の人差し指、中指、薬指だけは常に爪を短くしてる奴が居たのを思い出しまして。

きっと榎さんは受けでもそれなりに気持ちは良かったけど、益田のように自分を見失うほどではない気がしています。というか、童貞益田の手管じゃたかが知れている、みたいなwwwwwww
それでもテクニックや状況プレイなら益榎、単純に相性や勢いなら木場榎って感じがしますね。

今回割愛した益榎エロもいつか書いてみたいです。
最後まで読んで頂いてありがとうございました!!



  
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